はじめに
大学や高校を卒業し、就職する際、「あなたの強みや長所はなんですか?」と面接官に聞かれ、
・協調性があることです。
・継続力があることです。
・リーダーシップがあることです。
等と答えた経験があるのではないでしょうか。就職の面接では、これらの回答は良しとされたかもしれません。
ですが、これから起業する際、これらの強み・長所は、ビジネスにおける強み・長所とは必ずしも言えません。
え?と思った方もいるでしょう。確かに、これらの特性は、人間として素晴らしいことですが、ビジネスとは、価値を提供して、利益を生み出すものです。挙げた「強み」は、これに直結するものを厳選して考えるようにします。
<強みのヒント>
■売上を上げられるか
・前職の人脈で、すぐに販売できる知人が100人いる。
・テストマーケティングでは、商品の価格に対して極めて低いコンバージョン単価で販売できた。
・他社では真似できない特許を持っている。
■原価を下げられるか
・野菜生産者との繋がりがあり、直販かつ特別価格で調達できる。
・工場近くに水質良好な天然湧き水があり製造に使用できる。
■販管費を下げられるか
・安価で請け負ってくれる外注先が複数ある。
・Web広告の運用に長けた社員がおり、Webマーケ会社に発注せずとも高い効果を出すことができる。
・業務の標準化が得意で、精緻なマニュアルがあり、非正規職員で業務の大半を回せるため人件費を安く抑えられる。
ただし、状況によって大きく変わります。
SWOT分析・クロスSWOT分析によって、これから行う事業の合理性を確認する。
SWOT分析とは?
SWOT分析、クロスSWOT分析という言葉を聞いたことはありますでしょうか。
これは、S=強み、W=弱み、O=機会(追い風になっていること、好都合なこと)、T=脅威(厳しい情勢)、をそれぞれ書き出して、これから行う事業を考えたり、考えた事業の合理性を検討したりするフレームワークの一つです。
クロスSWOT分析とは?
クロスSWOT分析とは、SWOT分析で挙げた、強み、弱み、機会、脅威を掛け合わせて、今後どのような経営行動を取るべきか検討するSWOT分析の応用バージョンのようなものです。
例)SWOT分析
<和菓子店を例に>
強み
・伝統の味 ・どら焼きづくりで秘伝の粉の配合 ・和風プリンが売れている
|
機会
・近隣にテナントが複数入居するオフィスビルが出来た ・和風プリンブーム
|
弱み
・こだわり食材で原価が高い
|
脅威
・たまごの値段が高騰 ・競合店が和風プリンを発売した
|
記事のため簡単に記載しましたが、この様な傾向がSWOT分析によって挙げられました。
例 クロスSWOT分析
– | – | 強み | 弱み |
– | – | ・伝統の味。近所の高齢者には好評。
・どら焼きづくりで秘伝の粉の配合 ・どら焼きづくりの秘伝の粉の配合を応用した和風プリンが売れている |
・こだわり食材で全体的に原価率が高い
|
機会 | ・近隣にテナントが複数入居するオフィスビルが出来た。OLも多い。
・和風プリンブーム |
強み×機会=積極戦略
・OLをターゲットに和風プリンの販売を強化 ・評判の伝統の味を、オフィス街のOL向けに販促する。 |
機会×弱み=改善戦略
原価抑制を図り、和風プリンの利益利率の向上を図る。
|
脅威 | ・たまごの値段が高騰
・競合店が和風プリンを発売した
|
強み×脅威=差別化戦略
・どら焼きのブランディングにより高価格化を図り、たまごの値段高騰に対応する ・独自の粉の配合により製造した和風プリンであるとプロモーションを行い、競合に対抗する。 |
弱み×脅威=致命傷回避・縮小戦略
たまごをはじめとする物価高騰による利益縮小が見込まれる。販売商品ごとに利益率を精査し、提供商品数の縮小等を検討する。
|
SWOT分析で挙げた傾向をさらに、上記のような表に当てはめて、「強み×機会」のようにクロスして検討するのがクロスSWOT分析です。
上記の表では、和菓子店の現在の経営状況(内部環境・外部環境)を挙げ、さらにそこから積極戦略、差別化戦略などを検討しています。
いかがでしょうか。今、記事用に適宜埋めてみたものですが、今後どのような戦略とすればよいか、良くわかると思いませんか?各項目をもう少し詳しく分析することで、より具体的な戦略を立てることができます。
さらに、外部環境(機会、脅威)をもう少し深く分析するフレームワークとして、PEST分析があります。PESTとは、政治、経済、技術、社会の項目を挙げ、検討するものです。「中国の社会情勢が不安定」、「AI技術の進展」、「ライドシェア制度導入の可能性」、「ドローン技術の実用化」など、様々な検討事項が浮かび上がります。
伝統の味について
実は、
・強み「伝統の味。近所の高齢者には好評」
について、
口コミでは、
「懐かしい味と言われるけど、誰も食べたいと思わない」
「はっきり言って、コンビニのスイーツの方が美味しい」
「おばあちゃんの食べ物と言う感じで、若い人はまず買わない。」
「新メニューが出ても、店に入りづらい」
と、かなり辛辣なコメントが並んでいたとします(さすがにこれだけ書かれると気づくでしょうが、あくまで架空の会社)。
すると、どうやら、経営者が認識している「伝統の味。近所の高齢者には好評」という強みは、認識誤りである可能性が高いです。
すると、強み×機会によって考えられた
「・評判の伝統の味を、オフィス街のOL向けに販促する。」
も経営戦略誤りです。
つまり、「強み」の認識を誤ると、「企業の方向性」を誤るということになります。
創業融資における事業計画書について
創業融資を申し込む際には、事業計画書を作成します。
事業計画書にSWOT分析の表は記載する必要性は少ないですが、これから始める事業は、クロスSWOT分析でいうところの積極戦略が望ましいです。
例えば、
強み・・長年の飲食店勤務経験があり、店長経験が豊富。メニュー開発や、資金管理も任されていた。
機会・・繁盛している路面店の経営者から、自身は店舗を移転したいのだけど、常連さんが多数おり、そこで店を続けてくれないか、屋号やコンセプトは好きなようにやって良いと打診があった。独立したいと考えていた。
のように、強みと機会がクロスして、おそらく成功するだろうということを、事業計画書に表現します。
繰り返しになりますが、ここで、自分の強みをはき違えてはならないのです。
「強み」は何か、正しく認識するように努める
自分1人で強みとは何かを考えても、正しい結論に到達するのは難しいです。
以下、2種類の相談者を紹介します。
①配偶者
創業者の事を良く分かっています。まずは配偶者に、自分の強みはなんだろう、すぐに売上に繋がる力は何かあるか聞いてみましょう。
②コンサルタント
起業を扱っているコンサルタントに聞いてみてください。この際、あなたの事を深く理解しようと努めてくれるコンサルタントを探してください。それはあなたのビジネス上の強みではないと助言をくれるコンサルタントがいれば最良。有料が基本。
まとめ
①創業融資の事業計画書は、クロスSWOT分析を意識して作成する。
②「強み」の認識を誤ると、事業を誤る。事業を誤ると、失敗する。
③「強み」は客観的に評価してもらう。評価できる人に見てもらう。