元請と下請けとの間で、契約書を交わすことは必要でしょうか。
結論から言って、必要です。
建設業法19条によると、建設工事の請負契約の当事者は、契約の締結に際して、法に列挙された内容を具備した書類を相互に交わさなければなりません。
必要性について下記の3点から考察してみます。
その① 建設工事の特殊性(高額かつ複雑)
建設工事はその内容が高額になることに加え、工期や工事内容について疑義が生じやすいです。
私も役所で工事契約担当であった時、メーカーからの機器納入の遅延による工期の変更や、工事の進捗による追加工事の発生など、やってみなければ分からないとも言える不確定要素が満載でした。
だからこそ、スタート時点で契約により工事内容や金額を固めておかなければ、変更のしようがないですし、協議による変更は紛争の元です。
その② 建設業許可等における法定書類になる
毎年の決算変更届等の基礎資料になります。
その③ 下請業者が建設業許可を取るためには契約書が必要
建設業許可を取得する際、「経営業務の管理責任者」(経管)と呼ばれる人を選任する必要があります。
この経管には、
①会社に常勤か、②役員等の経験があるか、③建設業の経験があるか等をそれぞれ証明します。
ここで、③の建設業の経験があるかについては、「建設業許可の手引き」(秋田県建設部建設政策課)によりますと、
工事請負契約書、注文書、注文請書、請求書等の写し(1年につき1件以上、必要期間分)とあります。
つまり、自社が唯一の取引先(元請)だとすると、下請けが建設業許可を取得するには、契約書を交わしていなければなりません。
下請業者としても、「もう何年も工事をしています」と言っても、この経験を認めてもらうのは難しいです。
行政は文書主義です。担当者は上席に決裁を仰ぎ、決裁後、許可の判断が組織としてされたものとして事務処理します。
上席に、経験は?と聞かれて口頭で答えるわけにはいきません。
契約書の整備が思わぬ利益を生む
冒頭でも書いたとおり、建設工事は高額な内容になります。
全ての工事で契約書を交わすのはとても面倒で、顔見知りであればなおさらですが、自分を守るためにも是非交わしてください。
また、契約書を交わすことは、「建設業経営の経験」の証明資料になります。契約書単体だけを社内に保管するだけでなく、内部的な意思決定を証明するため、決裁文書に、役員や総務部長など、将来的に経管に配置を予定している社員の稟議欄を設けます。これにより、建設業経営に関与した年数を疎明できる場合があります。
私が顧問契約により、社内体制を拝見した際には、経管・専技の将来構想とともに、組織図や、この決裁欄等の社内文書のコンサルも行います。
(法改正)請負契約における書面の記載事項の追加(19条関係)
工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容を書面に記載することなった。
~契約書への記載例~
〇工事を施工しない日 毎週土曜日/毎週日曜日/8月10日から8月15日まで 等具体的に記載
〇工事を施工しない時間帯 午後8時から翌朝6時までの間 等具体的に記載
これらの条項を契約書に追加します。「定めをするとき」とありますので、定めなければ記載の必要はありませんが、お盆や正月休みが予め決められているのであれば、法の趣旨から条項を盛り込むのがベターです。
~参考~
第十九条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。